コラム

院長コラム

歯科恐怖症の患者さん

歯科診療に来られる患者さんの2、3割の方は、歯科に対する恐怖心をお持ちのようです。また、その中の1割ぐらいの方は、極端に恐怖心が強く、できれば歯科医院には行きたくない、できるだけ早く終わって、早く帰りたいとお考えの様子がうかがえます。
その方々によくよくお話をうかがうと、小さな時、またはかつての歯科診療中に、不幸にも非常に痛い目にあった経験をされていることに気がつきます。その原因はさまざまなことが考えられますが、原因の一つは、歯科医師側に責任があると考えられます。一言でいえば、痛みについての配慮が足りないということでしょうか。歯の治療の過程でおこる痛みは、歯の治療の完成にはしかたのないことと考える傾向が強いのです。最終的に治療が完成してしまえば、痛みについては忘れてくれるだろう、少しの痛みは帳消しにしてくれるだろうというのが、術者の心理なのです。
かつて私も、治れば少々痛くてもいいじゃないかと思うことがありました。しかし患者さん側からすれば、痛みを忘れることができないうえに、その痛みの感情を増幅して持ち続けることになってしまいます。それが歯科恐怖症を作ってしまうことになってしまいます。
また、一度嫌な思いをすると、より足が遠のくことも問題です。特に歯科は、何年も歯科医院へ行くのが離れてしまうと、それだけ悪くなっていってしまうという統計がありますので、なおさら痛みの問題は解決しておかねばなりません。かつては患者さんの数も多く、虫歯の本数も多かったため、疼痛に対する配慮もややもすると忘れがちであったことも関係しています。いずれにしても最近では、痛みを伴わずに歯科治療を受けることができるようになってきていますので、恐怖心は必要ありません。とはいっても、トラウマは完全にとりきれないため、恐怖心を取り除くためには、どうすればよいでしょう。
歯科の治療は痛くないと言い続けても、あまり聞く耳をもってもらえないので、痛みを感じない治療を何度もやって実感をもってもらう以外にトラウマから解き放たれる術はなさそうです。ただ、無痛で治療することはできます。
まずは術者が、その気でやることが大事だと思います。痛みを軽視しないことが大事です。
痛みなしに治療はできます。しかし麻酔薬を開発したかつての医者は「これで人類は堕落するだろう」という言葉を残しています。最近の若者はよくキレるとか、昔はなかった殺人事件がおきますが、これらの事とこの言葉の意味は関係あるように思えます。痛みに耐えることが、人生においてある種の意味があるとも考えられます。このことを踏まえて、歯科の無痛治療を受けられてはどうでしょうか。
歯の値段は1本いくら?
人の体の器官・組織に値段はつけられません。しかしあえて付ければいくらになるのでしょうか?
例えば心臓移植に要する費用は5000万円とか1億円とか、かかっているようですね。腎臓は300万円が相場とか、まことしやかに言われています。



では歯1本はいくらでしょうか?

ある歯科医が歯を抜歯するのに、誤ってその隣の歯を抜いてしまいました。
怒った患者さんは裁判所に訴え、裁判官は歯科医に150万円の賠償命令を下したという話があります。
慰謝料が含まれているとすると、ざっと100万円くらいが歯の値打ちでしょうか。あえて値段をつけるとこのぐらいなのではないでしょうか。
全部歯があると28本なので、2800万円になります。
大事にしたいものですね。



無痛治療

以前、浸潤麻酔をして神経にかかわる治療をし、その後患者さんに痛くなかったかどうかをお聞きしたところ「とても痛かった」と言われてしまいました。
私は麻酔がきいているものとばかり思っておりましたし、もし万が一患者様が痛いと感じたら、必ず表情に出すか何らかの訴えがあり、その時に分かるだろうと思っていましたし、その時に追加麻酔をすればよいぐらいに考えており、どんどん処置を進めていました。しかしその方はとても辛抱のいい方で眉一つ動かさなかったのです。終わってしまってから、大変悪い事をしてしまったと思いましたが、後の祭りでこのような方が日本人にはいらっしゃるということを悟り、それ以降は十分麻酔していると分かっていても、あえて「痛いと思ったら遠慮せず言ってください。追加麻酔をすれば痛みは取れますので。」と声をかけるようにしています。



年齢別歯牙残存歯数歯牙崩壊ルート

日本人の80歳での平均歯牙残存歯数は9本です。
スウェーデン人の80歳での平均歯牙残存歯数は25本です。
歯は上下14本づつ、合計28本あれば満点です。日本人とスウェーデン人はどうしてこんなにも差ができているのでしょうか。私はこの事実に愕然としました。
日本人は歯磨きをしていないのでしょうか、日本人の歯医者は技術が低いのでしょうか。
否、理由は他にありそうです。
徹底した予防か治療かの違いが、80歳の残存歯数にかかわってきているように思います。
日本では歯に何らかの自覚症状が出た場合に歯医者に行き、自覚症状が喪失すればその後歯科医院であと何回通院すればよいかを尋ねて、その通りにすれば終わる。そして4、5年あいてまた自覚症状が出て、同じことを繰り返す。このやり方が一般的で何も悪い事はない様に一見思われるのですが、実は治療では、悪くなった歯は全く100%元に戻ってはいないのです。80%元に戻ったと解釈すべきです。
100×0.8=80
80×0.8=64
64×0.8=51.2
51.2×0.8=40.9
40.9×0.8=32.7
このように毎回8割は元に戻るのですが、長い間に100が32.7になっていきます。
つまり若い時点では虫歯がおこり、それが再度虫歯を起こし、神経を取り被せものをし、その歯が再度虫歯になったり炎症を起こしたり、根が破折していたりで抜歯になります。
抜歯した場所はブリッジにするか義歯になりますが、またその場所は再度虫歯を起こしたり、歯周病を起こし抜歯につながります。この頃が年齢的には40~50歳くらいでしょうか。そしてこれらの事が各所で起こるため、欠損場所が増えてきます。すると今まで虫歯菌や歯周病菌による攻撃だけだったものが欠損する場所がふえることによって全体の歯の本数が減り、今まで28本で各部所が行っていた機能、例えば前歯では噛み切り、小臼歯では噛み砕き、大臼歯ではすり潰し等の分担作業を、その他の場所が負担して行わなければならなくなってきます。
その結果、虫歯・歯周病等の菌による攻撃に加え、力の過剰負担による力も攻撃も加わり残存歯を痛めつけ、欠損歯数の増加に拍車がかかってきます。
そしてそれに甘いものの大量摂取、ブラッシング不足、喫煙らの危険因子が加わることによって、ますます歯に負担がかかり抜歯せざるを得ない状況になり、総入れ歯になることもあります。
それではスウェーデンではどのような事がなされているのでしょうか。
メンテナンスつまり虫歯になってからの治療ではなく、ならないような処置を定期的に行うこと、すなわち予防を重要視しています。
この、歯に対する認識の差が決定的に違っているのです。
スウェーデンでは国家がメンテナンスを義務付けているという徹底ぶりです。つまり95%の国民が自覚症状がないのに歯科医院または予防センターを訪れるということです。日本はまだ2、3%の人しかそのような事を行っていません。アメリカは50~80%の人がメンテナンスを行っています。それらの国ではメンテナンスの重要性が社会のなかですみずみまで行き渡り、歯を守る為にはどうすればよいかが、適切に認識されているためメンテナンスが実行されているのでしょう。
日本では、せいぜい早期発見、早期治療が良いとされていますが、これでもまだ次善手なのです。そして健康保険制度では治療のみが唯一点数化されているのも大変な問題です。
この制度の基では歯科医師は皆さんの歯が悪くなるのを待っている状態なのです。そして自覚症状が出れば治療し、8割を治しています。
そしてその繰り返しが行われているわけです。
長い期間をかけて、この繰り返しが行われているため徐々に歯が悪くなっているという自覚はありません。しかし歯を抜いて入れ歯になると、事の重大さに気付くのですが、その時はすでに遅いのです。
咬合崩壊が始まりかけると、細菌攻撃だけではなく自分自身が食事をすること自体、残り少ない歯に咬合力という過剰負担をかけ、ますます歯牙破折・歯周病等を引きおこしていきます。
そして行きたくない結末、総入れ歯に行き着いてしまう方もいらっしゃいます。
ですので、できるだけ早い時期に歯はどうすれば守れるのかを自覚して、50歳以降を迎えなければなりません。年をとれば入れ歯は仕方ないとあきらめてはないでしょうか。歯を残そうと思えば若い年齢からその準備に入る必要があります。
原因があり結果を作り、その結果が原因となりまた別の結果を生むという連鎖反応を起こします。そして後になるほど治すこと自体が難しくなります。
そして治しても再発しやすくなります。
歯周病を進行させないように、虫歯を作らないようにすることが将来歯を残すための必須事項です。自覚症状を歯医者に行く為の目安にしてはいけません。
自覚症状は相当悪くなった状態です。自覚症状がある時だけ歯医者にかかるという考えでは古く、歯を一生涯守ることはできません。
メンテナンスより他に歯を守る方法はありません。
メンテナンスで歯を維持することは、変化の少ない退屈な作業です。画期的なことはありません。劇的なことも、変化もありません。しかし歯をなくしていくと、歯の大切さがよく分かります。あと10本くらいになると、1本でも歯を残したいと思うようになります。でもその時では遅いのです。先見の明を持ちましょう。
10年後、20年後、30年後を想像してみましょう。
その時入れ歯でも構わないというのなら話は別です。
しかしその時も自分の歯でとお考えなら今から地道な努力をしておくことが必要です。




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